ディープ・パープル

 若い頃から一度もディープ・パープルが好きだなんて誰にも言ったことはないが、そのとおりであって、特に好きなわけではない(パープルより好きなバンドはいくらでもある)。しかし、一流のロックバンドのみが知るロックの不文律のようなもの(これこそ昔のブリティッシュロックの魅力なのだが説明は不能である)を踏襲・遵守し、いい音楽であるのは間違いない(単三度の音をイアン・ギラン時代までは〔歌メロでも〕使用していなかったと思うが、この点はユーライア・ヒープなどの他の多くのハードロックバンドとの大きな違いであり、この点も僕がパープルを許せる理由である)他、上でツェッペリンを持ち上げる際にパープルを貶めてしまったので、カッコいいと思う点には触れておきたい。

 このバンドはイアン・ギランが加入して最強のハードロックバンドに変身した。では、イアン・ギランが脱退すればパープルでなくなるかといえば、デヴィッド・カヴァーデイルに代わってもパープルと認められ、それはジョン・ロードが抜けても同じだっただろうと思う。しかし、リッチー・ブラックモアがいなくなればパープルではなくなる(たとえ上手かろうが冨墓林は無茶である)。これは僕だけでなく多くのファンの共通認識であろう。

 ここで話は脱線する。キース・ムーン、又はピート・タウンゼントが抜ければザ・フーはザ・フーでなくなる(ロジャーかジョンが抜けたのなら続けて欲しい)と僕は考えるのだが、ザ・フーのワールドツアーなどを見る限り、多くのファンはそう考えていないように思える。ジミー・ペイジはボンゾがいなければツェッペリンでないと考えたが、これは僕も同じである。しかし、プラントやジョン・ポール・ジョーンズであれば、僕なら続けて欲しいと考えたであろう(もっとも、ペイジなら解散を選択したように思うが)。ストーンズならどうか。「ストーンズとはミック・ジャガーとキース・リチャード」と考える人と、「ストーンズとはミック・ジャガー」と考える人で考え方は変わるであろう。僕はかつては後者であったが現在は前者である。ではビートルズならどうか。

 この話は書き始めればいくらでも広がるが、さすがに脱線がすぎる。パープルに話を戻そう。僕は高校時代に「24カラット」を最初に聴いてパープルを知ったのであるが(もちろん「ハイウェイ・スター」は知っていたが)、その正直な感想は「悔しいけどカッコいい」だった。「ブラック・ナイト」以外は全部カッコ良かったが、特に「スピード・キング」には度肝を抜かれた。

 大人になって、「スピード・キング」が聴きたくなって「イン・ロック」を買ったのだが、いきなり低音のギターリフから始まって驚いた。「24カラット」のヴァージョンは、開放弦を鳴らしながらのアームとスクラッチを多用したジミヘンばりの爆音から始まり、静かなオルガンに移ってリフの開始を待つワクワク感があるのだが、それがない。これは慣れの問題だろうが、「24カラット」のアレンジのほうが上だと思う。あと断然好きなのは、「ウーマン・フロム・トーキョー」だ。大サビの前後にアイデアが散りばめられていてカッコいいことこの上ない。またこの曲は、大サビ後のサビの後のピアノが、僕の大好きなエアロスミスの「アイ・ワナ・ノウ・ホワイ」のエンディングを想起させる(キーが一緒でコード進行とテンポがほぼ同じの他、ピアノが入ったアンサンブルも同じ。もちろんパープルが先である)。こんなのを聴くと、ロックってホントにカッコ良かったよなって嬉しくなる。この第2期最後のアルバムは、高校時代に聴いていればきっとがっかりしていただろうが、今聴けばなかなかいい。

 もう一曲挙げるなら、シンガーがデヴィッド・カヴァーデイルに代わってからの「バーン」だろうか(ほとんどのファンはこれを選ぶだろう)。この曲も、曲調がマイナーであるため、曲が弱くならないようにと歌のバックでイアン・ペイスが派手に叩きまくっているが、マイナー臭を消すことに成功しているとは言えまい。グレン・ヒューズがあんなに美しく単三度でハモるとマイナー臭なんて消せるはずがないし、曲を強くなんてできるはずがないのだ(ハードロックなのに美しい〔美しいハードロック〕などと呼ばれているものは、だいたいが単三度を大上段に振りかざして使っているバンドであろうが、こんなことはブルースギタリストはもちろん、リッチーだってしていないはずだ〔全部は聴いていないがそう信じたい〕)。またギターソロも、基本的にマイナーペンタトニックの一本調子だし、リッチーの超一流のロックセンスのおかげで弱くはなっていないものの、きれいすぎて若干不満である。ジミー・ペイジならスケールチェンジするかな、ジェフ・ベックならブルーノートでていねいにフレーズを組み立てて不安定感を出すかな、などと思うが、そうするとソロの最後のクラシカルな展開ができないな、などと考えるとこれはもう一つのようだ。

 そこで、僕がもう一曲選ぶなら、「ライヴ・イン・ジャパン」の「スモーク・オン・ザ・ウォーター」になろうか。この曲はシンプルなのにコード進行はユニーク(トニックGの曲にサビでG#のコードがそのまま出てくる変態さ)だし、ギターソロもリッチーらしい中近東風で不安定感やオリジナリティーがあって「マシン・ヘッド」のヴァージョンより断然カッコいい。

 これではパープルは「24カラット」があれば足りることになりそうだが、もう一曲選んでも、僕の好みでいえば「ハイウェイ・スター」ではなく「ライヴ・イン・ジャパン」の「ストレンジ・ウーマン」になるから、やはり「24カラット」で足りてしまう。しかし、それでは面白くないので、うちに「24カラット」のCDはなく(現在は置いてあります)、「イン・ロック」はイギリス盤ヴァージョンがある。