エリック・クラプトン

 クラプトンとの出会いは高校2年の時だった。当時は速弾きギタリストが人気で、リッチー・ブラックモアがクラスの友人らの間で大人気だった。僕ももちろんクラプトンの名前は知っていたが、76年当時のクラプトンはすでにレイドバックしていた。当時の高校生は深夜ラジオをよく聴いていたが、そこで聴いたクラプトンには全く興味が持てなかった。

 しかし、情報量の少なかった70年代といえども、クリーム時代のクラプトンが凄かったとの情報くらいは僕も共有していた。そして、最初にクリームを聴いたのはFMラジオでだったと思う。「クロスロード」だった。「クロスロード」を聴いて、衝撃を受けなかった者などいないのではないか。ブルースファン、ロックファンのみならず、ジャズファンやジャズミュージシャン、ジャズギタリストまでが驚愕したという。そりゃそうだろう。フレージングは完璧だし出だし(もちろん2回目のソロ)のハッタリも効いている。重音弾き部分のリズムもシンコペーションが効いていて滅茶苦茶スリリングだし、決めのチョーキングビブラートなんて僕には唸りを上げて聴こえるのだ。これがアドリブだと!? 僕は数えきれないほどのギターソロ、アドリブを聴いてきたが、「クロスロード」のギターソロは、そのドライヴ感とスリリングさ、キャッチーさの点において、僕にとってロック史上最高のギターソロだと断言できる(当たり前だが速い遅い、上手い下手を問題にしているのではない)。クラプトンのファンでなくても、僕の意見に同意する者は多いだろう。

 しかし、僕が高校時代にクラプトンを好きになることはなかった。僕がクラプトンを好きになったのは、長い年月を経て50歳をすぎブルース・ブレイカーズを聴いてからである。

 振り返ると、高校時代の僕はリッチー・ブラックモアの呪縛に囚われていた。すなわち、凄いギタリスト、それも解り易いハッタリの効いた速弾きで、曲もハードなものばかり探していたのである。そんなお子ちゃま基準だから、ジミヘンを聴いてもクラプトンを聴いてもジェフ・ベックを聴いても満足できるわけがなかったのである(では、ツェッペリンはお子ちゃま基準に適合したのか。「永遠の詩」のライヴに限ってはそう言っていいが、他のスタジオアルバムについては単純にそうとは言えない。だが欧米でのツェッペリン人気はライヴでのお子ちゃま基準で火がついたものである。それとジェフ・ベックについては若干異なるので後述する)。

 ここで打ち明けると、僕の高校時代に最も夢中になったバンドは(高校卒業後はザ・フーと言っていい)、レッド・ツェッペリンとエアロスミスであるが、当時のことを客観的に思い出してみて、エアロを好きになった理由はよく解る。それは、曲がディープ・パープルに対抗できる程度のハードロックであったこと、一曲が3~4分程度でカッコいい部分だけをダイジェストでやってくれたこと、ジョー・ペリーのギターソロがキャッチーでユニークでカッコ良かったことなどである。この中では2番目の「カッコいい部分だけをダイジェストでやってくれた」が特に重要だ。お子ちゃまは退屈が耐えられないのである。しかし、今になって当時のエアロを聴くと、ジョー・ペリーのギターがユニークでカッコいいことを加味してさえ、全ての曲が一本調子なこと、ジョーイ・クレイマーのドラムが全く面白くないことなどから、すぐにおなか一杯になって飽きてしまうのだ。

 脱線しすぎたので元に戻そう。要はこんなお子ちゃまだった僕にクラプトンは早すぎたってことだ。ところで、ヤードバーズについては、僕はデビューアルバム(クラプトン時代のライヴ盤)しか持っていなかったが、最近、悩んだ挙句、ある寄せ集めのベスト盤を買った。ただ、アマゾンにはこれを聴いた者の苦情があった。ギタリスト名がクレジットされておらず、誰が弾いているのか判らないというのである。しかし、僕にその判別は容易であった。クラプトンとベック、ベックとペイジだが、音が違うこととフレージングの特徴で判るのである(凄い正確な速弾きがベックでなくペイジだったりする)。

 それよりも、ブルース・ブレイカーズ時代のクラプトンのギターはファン必聴である。クリーム時代よりいきいきしているのではないか。これと比べると、クリーム時代の演奏は重音弾きばかりで単調に感じる。バンドとしての凄みはクリームのほうが上だが、ブルース・ブレイカーズのアレンジも面白いアイデアが多く、ブルースというより意外にもロックでかなりカッコいい。

 最後に、ビートルズファンにとってのクラプトンは、「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」である。僕も本当の初の出会いはこれだ。このギターの評価がファンには気になるところだが、これはジェフ・ベックの「哀しみの恋人達」に匹敵する名演だと思う。クラプトンの凄さはリズム感にあると思うが、これ以上ないタイミング、かつ絶妙のピッチ調整でチョーキングをアップダウンし、極端にいえば、それだけでメロディーと表情を創り出してしまったのである。このギターソロは、スローハンドというニックネームから「これぞクラプトン」と思われそうだが、大きなビブラートを除けば、この繊細で表情豊かなギターはむしろ70年代以降のジェフ・ベックであろう。

 ジョージの話によれば、この日のクラプトンは、ビートルズとの共演に朝から凄く緊張していたらしく、ジョンとポールもクラプトンとの共演ということでかなり興奮していたという。何とも微笑ましい話だが、歴史的名演になって本当に良かったと思う。