マイ・ジェネレーション(ザ・フー)

 このアルバムは、ザ・フーのデビューアルバムとして65年12月にイギリスで発表されて全英5位のヒットを記録したが、66年にプロデューサーのシェル・タルミーと対立し、67年に発売元の英国ブランズウィックの閉鎖とともに廃盤となった。そこで、多くのファンはUS盤の「マイ・ジェネレーション」を聴いたのであるが、「キッズ・アー・オールライト」の間奏が短く編集されていることやUK盤のジャケットのほうが断然カッコ良かったことなどから、このアルバムの再発は長年の間ファンから切望されていた。

 途中、80年にヴァージンから一度だけ再発され、02年にタルミーとの和解を経てその原盤を編集したステレオ盤CD「デラックス・エディション」が発売されたが、これはオリジナルモノラル盤と異なり、「マイ・ジェネレーション」の間奏にピートのギターがオーバーダビングされていないなど不完全なものであった。完全なオリジナルモノラル盤がCD化されたのは、なんと67年に廃盤になってから41年を経た08年であった。

 僕などは弟が80年に買ったヴァージン再発のオリジナルモノラルLPを聴いていたため、切望の度合いは低かったが、このCD化が待望のことであったことに変わりはない。ちょっと前置きが長くなりすぎた。内容に入ろう。

 オープニングは「アウト・イン・ザ・ストリート」。暴力的・扇動的な曲であり、間奏でのスクラッチやトグルスイッチの切り替えが印象的な曲だ。「アイ・ドント・マインド」はジェームス・ブラウンのカバー、「ザ・グッズ・ゴーン」はピートの曲で地味な曲ではあるが、いずれもその演奏はタイトである。「ラ・ラ・ラ・ライズ」、「マッチ・トゥ・マッチ」はアップテンポの曲だ。とりわけ「マッチ・トゥ・マッチ」ではキースの硬い、パワフルなスネアの音が素晴らしい。ピートのシャキーンとしたカッティングも小気味いい。この曲には変な名前がクレジットされているかもしれないが、ピートのオリジナル作品である。「マイ・ジェネレーション」は“I hope I die before I get old”の歌詞が有名な曲だ。「ラ・ラ・ラ・ライズ」からの3曲はいずれもドラムの音が大きいが、とりわけ「マイ・ジェネレーション」のエンディングでのキースの破壊的フィルインは衝撃的だった。しかし、ジョンの弦高を低くして弦をビビらせながら弾く間奏のベースソロも見逃せない。

 アナログB面1曲目は「キッズ・アー・オールライト」。ザ・フーのドキュメンタリー映画のタイトルにもなった曲だ。US盤では間奏が短く編集されているが、ここではオリジナル完全版が聴ける。この曲は「四重人格」に収録の「ヘルプレス・ダンサー」のエンディングに出だしが挿入されているが、このアルバムを聴いてすっきりした人も多いだろう。「プリーズ・プリーズ・プリーズ」はジェームス・ブラウンのカバーでいわゆる「ハチロク」のスローブルースであるが、ザ・フーが演奏するとここまで派手になるのが面白い。「イッツ・ノット・トゥルー」は隠れた名曲だが隠れすぎだろう。キースのスネアも抜けたいい音だ。なんでこの曲のライヴがないのだろう。多くのバンドがカバーする「アイム・ア・マン」も、ここではキースの火を噴くようなドラミングが主役だ。そして「リーガル・マター」。皮肉なタイトルだが、この曲のみヴォーカルはピートだ。最後はインストの「ジ・オックス」。「アイム・ア・マン」と同じくスタジオでのライヴの再現である。ファンならピートが何をやっているか逐一判るはずだ。

 このアルバムは、ファンの評価とは反対にメンバーの評価は低い。ピートも酷評している。その後のフーのアルバムと比較しつつ想像するに、アルバムに何の目的性もないことが理由であろうか。

 では、このアルバムがファンから特別の高評価を受ける理由は何か。不条理にも廃盤になっていたため幻の名盤になってしまったのだろうか。ストレートなロックナンバーが多く収録されていることもあるだろう。僕が思うには、ザ・フーとは激しいライヴパフォーマンスが魅力であるところ、そのイメージどおりの激しいアルバムがこのアルバム以外に無かったことではないだろうか。ピートによれば、このアルバムのレコーディング中、メンバー間では喧嘩が絶えなかったらしいが、むしろその仲の悪さがスリーピースの間、とりわけピートとキースの間で激しいバトルを生んだのであろう。

 この観点からこのアルバムをみると、「アウト・イン・ザ・ストリート」から「ジ・オックス」まで、一部の例外を除いて激しい演奏で貫かれている。激しい演奏とは、必要以上の強い力でドラムを叩き、必要以上の大きなストロークで、又は強い力でギター、ベースを弾くなどを指している。えっ、なぜ大きいストロークで強く弾いていると判るかって?キースはピートに煽られて乗るタイプであるが、このアルバムでのキースの火を噴くようなドラミングを聴けば、ピートがライヴと同様に激しく煽っていることが明白だからである。また、激しい演奏をするには卓越した技術が必要であるが、ロック史上、新人バンドのデビューアルバムでこれほど激しくかつ完璧な演奏を披露したバンドはないだろう。デビューアルバムでザ・フーより完璧な演奏を披露したバンドがあるとしても、これほどの激しい演奏はしていないはずだ。プロデューサーが許さないだろう。

 この点からは、ローリングストーン誌がなんと言おうが、このアルバムは空前絶後にしてロック史上最恐(狂?)の新人デビューアルバムと言えるだろう。(1965年12月発表)