SHEENA & THE ROKKETS #1(シーナ&ロケッツ)

 僕がシナロケで最初に買ったアルバムは2枚目の「真空パック」だったが、どこでこのバンドを知ってこれを買ったのかは憶えていない。間違いないのは2枚目を買ってから大阪のサンケイホールでシナロケのライヴを観たこと、そのライヴが後日夜中にテレビ放映されたこと、僕が全身鮎川誠(敬称略。以下同)をキメていたらそれが典型的ファンの姿としてカメラで追われていて放映されたらしいこと(これは後日に友人から聞いた)だけだ。

 このサンケイホールが熱かった。鮎川は速い曲を全部ダウンで刻んでいた。その1年か2年後に京都で観た時はキーボードのゲストがいて鮎川もアップダウンでレイドバックしていた。サンケイホールでは、CMソングにもなった「YOU MAY DREAM」がヒットの兆しをみせ、ちょうどテレビ放映もあってバンド全体が気合十分だったのであろう。「SHEENA & THE ROKKETS #1」を買ったのがサンケイホールの前か後かは忘れたが、その日の僕の外見から考えればもう持っていたのだろう。ということで内容に入ろう。断りのない限りすべて鮎川の曲である。歌詞にはまるで興味がない。

 オープニングの「涙のハイウェイ」はパンクだが、ロンドンパンクではなくラモーンズだ。転調してのサビはポップだがエイトビートが力強い。「夢見るラグドール」はサンハウスの焼き直しだが、こちらの演奏のほうがよりタイトだ。次の「レモンティー」もサンハウスの焼き直し。ここまでの3曲はなぜかアナログLPとは曲順が変更されている。

 ところで、最近知ったのだが、鮎川のことを悪く言う人もいるらしい。おそらく「レモンティー」のクレジットの「作曲鮎川誠」が許せないのだろう。しかし、こんなことは当時からファンなら知っていただろうし(ヤードバーズを知らなくてもエアロスミスやジェフ・ベックの「ライヴ・ワイヤー」で知られていた)、むしろ鮎川ならこれすら知らない人には聴いてほしくなかっただろう。この類いの批判、たとえばツェッペリンに対する批判についていえば、ブルースなんてものは基本的にスリーコードで極端にいえば曲は全部同じであって違いは歌詞だけとさえいえる。ツェッペリンはそれを歌詞まで同じにし(How many more timesとHunter等)、または似た歌詞にして(Whole lotta loveとYou need love等)あえて判る人には原曲が判るようにしているのである。これはリスペクトの表明だと思えないだろうか。たしかに「レモン・ソング」は「キリング・フロア」の顕著な個性を前面に出しているためやりすぎと言えないではない。しかし、これも軽いいたずらのノリだったように思える。

 カバー曲の「恋のダイアモンドリング」と「ボニーとクライドのバラード」は1曲目、2曲目と同様にシーナの個性的な声を利用してポップな売れ筋を狙ったような印象だ。他方、「アイラブユー」はポップだがパンクだ。しかしそれよりも、この曲ではサビ前のトニックGからB7→C→C#dimの半音展開による盛り上げ効果やサビのリフ、そしてエンディングのアイデアなど、次から次へと溢れ出る鮎川の引き出しの多さに圧倒される。

 アナログB面の「シュガリー」はロックンロールのカバーだが、シーナだけはパンクだ。次の「トレイントレイン」はザ・フーの「ネイキッド・アイ」を想起させる。しかし迫力はこちらが上だろう。「ブルースの気分」はこぢんまりとしたブルースの佳作。イントロや間奏のギターソロの盛り上げ方、まとめ方などフレージングの上手さ・キャッチーさはまるでジミー・ペイジかジェフ・ベックである。リズム隊も凄み十分だ。エンディングのギターはカットされている。そして「ブーンブーン」。これはイントロのギターからぶっ飛ばされてしまう。テンポの速い3連系のロックンロールで難しいリフをビシビシ決め続ける。サンハウスのものと異なり終始ライヴのような臨場感で、エンディングでの鮎川の「うるさい奴ら!」のシャウトも鳥肌もののカッコ良さだ。日本のバンドでこんなブギーをこれほどビシッと決められるバンドが他にあるだろうか。さらに「ビールスカプセル」を挟んで「400円のロック」。これもスリーコードだが、「ブルースの気分」と異なり「ロック」と名付けられている。これのエンディングのギターを聴いてジミー・ペイジを想起しない人は少しおかしいと思う。僕には川島のドラムまでボンゾに聴こえるほどだ。だからこれは「ロック」なのであろう。最後は「カモン」。チャック・ベリーの曲だがストーンズのデビューシングルとしてのほうが有名か。これにしても「シュガリー」にしてもなんとも渋い選曲である。

 このアルバムの底流にはパンクがある。鮎川といえば、昔からラモーンズやウィルコが好きだと公言し、チープなロックンロールばかり聴いている印象だ。しかし、「ブルースの気分」のバッキングやオブリガードでの細かい音使いはシカゴブルースの教科書のようであり、「アイラブユー」での引き出しの多さなどをみても、断じてそんな底の浅い人ではない。また、このバンドは浅田、川島のリズム隊を措いて語ってはならない。このアルバムに、とりわけアナログB面全体にみなぎる「本物感」は、彼らなしには生まれなかったであろう。

 鮎川誠は突出したロックセンスを生まれ持った日本人である。このアルバムは、客観的にみてパンクではなく、日本人にも本物のロックができることを示した一枚であり、英米の耳の肥えたロックファンに聴かせたい正統派ブルースロックの名盤である。(1979年3月発表)